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No.44 神々は妖怪になった(1)

平成14年8月30日
佐田靖治


一神教は神々を悪魔に落とし込んだ。古代の地球には神々が住んでおり、神話でも語られているように華やかな世界を構成していた。そうした神々を一神教は魔的な存在として地下に封じ込め、神々に通じる人間を魔女狩りと称して抹殺していった。

それが一通り治まると、キリスト教は天使宗教に変わっていく。古代の神々の位置に天使が登り、人間が聖人聖者として天国に住むようになっていった。悪魔化した神々は堕天使に変わり、人間の想念が生み出した偶像となって消えていく。それが西洋文明の流れである。

エルフが人間に席を譲ってヨーロッパや中東を去り、極東の島国日本に流れ込んでからしばらくは、日本でもエーゲ海やバビロニヤで栄えたような、神々のにぎわう時代が続いた。しかし、時は流れて今、21世紀のコンピューター文明期に入ってくると、神々のにぎわう国日本でも、神々は何かしら実態のわからないものになって、どこかしらに隠れていってしまうようになった。

本年のベルリン国際映画祭で金熊賞に輝いた「千と千尋の神隠し」とか「もののけ姫」などのアニメで有名な宮崎駿氏には、大和日本に昔いた尊い神々は、今では神ではなくなって妖怪に変貌してしまっている、という思想がある。非常に興味深いうがった解釈であり、どこからこうした感覚がわいてくるのか不思議なほどである。芸術的感覚というものがとらえる直感の見事さは、SFやSFXなど超科学的な感覚と等しいものとも言えるのかもしれない。

宗教領域にかかわっている筆者の立場から言うと、この点は否定のしようもない真実で、コンピューター文明が花開いた現代世界での思想としては、宗教を超える直感であると脱帽するのみである。日本人もまんざら捨てたものではない、と楽しませていただいている。

「もののけ」とは物の気、あるいは物の怪、つまりたたりのもとになる死霊や生き霊などのこと、「妖怪」とは人を惑わかす化け物のことであるが、これらはまだ古い感覚であって、高度に文明化してきた現代感覚で言えば、それらはコンピューター妖怪、神々で言えばロボット神の変容したものとして考えることもできるのである。


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